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Case 導入事例
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台風災害などを受け空港全体のBCPを策定

関連事業者を巻き込んだ災害情報共有システムを構築

成田国際空港

提供:成田国際空港株式会社

 

「成田空港を設置及び管理する成田国際空港株式会社(NAA:NARITA INTERNATIONAL AIRPORT CORPORATION)では、地震や風水害などの大規模な自然災害や、ライフラインの長期途絶など空港機能が喪失されるような事態を想定しながらBCPの改善を続けている。

2019年の台風15号の際には、アクセス機能の停止により多くの空港利用者が長時間、空港内に滞留することになり社会からの厳しい視線に晒された。
2020年から猛威を振るった新型コロナウイルスでは、1日あたり約12万人もいた航空旅客数が一時期1万人にも届かないほどに激減した。
いくつもの障壁を乗り越えて、あらゆる事故や災害に強い空港づくりが進められている。

同社の空港運用部門・オペレーションセンター・危機管理グループでアシスタントマネージャーを務める柳田烈氏は「空港の役割は変わってきています。
航空機の離発着機能の維持だけではなく、利便性が求められる時代。

災害時は安全の確保は当然として、安心も求められるようになっています」と話す。
NAAのBCPは、大規模な自然災害が発生した際に空港関連事業者が連携し、迅速かつ的確な対応を行い「災害に強い成田国際空港」を形成することが目的だ。

2019年10月に策定したこの成田国際空港BCPの想定被害は、 ①成田空港直下地震、②大雨や暴風などによる悪天候、③想定を超える災害による電力や通信などのインフラ停止 による空港機能喪失の3つ。

悪天候の場合は天候回復後5時間以内の運用再開、大規模地震の場合は地震発生後5時間以内の避難のための出発機及び救援機等の運用再開と24時間以内の定期民間航空機の運航再開を目指す。

柳田様
柳田様

危機管理グループでアシスタントマネージャー
を務める柳田烈氏

 

変化する空港のBCPの歴史

BCPの取り組みは15年ほど前から始まった。 2009年~2010年にかけて新型インフルエンザと大規模地震を想定したBCPを策定。
その後、NAAグループが連携して一体となった対応を実現するために、2017年にNAAグループ大規模地震対策事業継続計画、2018年にNAAグループ新型インフルエンザ対策行動計画を構築してきた。

しかし2019年4月、国土交通省が設置した「全国主要空港における大規模自然災害対策に関する検討委員会」は、滞留者対応や空港全体としての機能保持や復旧を目指し、 空港の設置管理者の統括マネジメントを前提としたBCPの再構築の必要性などを盛り込んだ「A2-BCP:Advanced Airport BCP」の策定を、成田国際空港を含む主要空港に求めることとした。

2018年9月4日の台風21号では関西国際空港が、同月6日に発生した北海道の胆振東部地震では新千歳空港が被災し、空港へのアクセス停止による数多くの滞留者の発生やライフラインが停止した。
これらの事態を受け、国が動き出したのだ。加えて、2019年9月、猛烈な風で送電線の鉄塔や電柱をなぎ倒し、首都圏を中心に最大約93万5000戸に停電をもたらした台風15号(房総半島台風)が成田国際空港を襲うと空港は機能不全に陥った。
例えば、各鉄道会社が運行を停止し、高速道路も通行止めにされ空港は陸の孤島と化した。一方で、滑走路や駐機場など空港機能が確保されており、航空機の運航が可能であったため、旅客機の到着によりターミナルに人があふれ、約1万3000人が空港内で夜を明かすことになった。

また、当日の交通アクセスの途絶により、多⾔語対応スタッフが出社できず、中国語、韓国語を話すスタッフが不⾜した結果、多⾔語対応が不⼗分となった。
こうした課題を踏まえ、2019年10月に成田国際空港BCPを策定した。

 

47関連事業者まで含めた連携の枠組み

2019年から運用をはじめたBCPと、それまでのBCPとの最大の違いは、発災時にはNAAグループ会社だけでなく47ある空港関連事業者とともに対応するため、 総合対策本部を設置し、空港全体としての機能維持と早期復旧のために空港関連事業者の役割分担を定めたことにある。
さらに房総半島台風の反省により、交通事業者と連携を高めるだけでなく、空港内の利用者向けの情報発信を強化。情報発信責任者を設け、総合対策本部に配置した。
日本語の他にも英語、中国語、韓国語での情報発信を基本とした。備蓄品にハラール対応食品も用意した。

成田国際空港BCPのイメージ

成田国際空港BCPのイメージ(提供:成田国際空港株式会社)

統合対策本部イメージ

統合対策本部イメージ(提供:成田国際空港株式会社)

空港運用部門・オペレーションセンター・危機管理グループの市川瑛祐氏

空港運用部門・オペレーションセンター・危機管理グループの市川瑛祐氏

BCPの策定にあたっては、約1年をかけ、各事業者とともに5回ほど共同会議を開き、被災イメージ、早期復旧の方針、空港関連事業者間の連携の重要性などについて共通認識を育んでいった。 官公庁から航空会社、鉄道会社、ホテル、空港内テナントまで参加した事業者は幅広い。空港運用部門・オペレーションセンター・危機管理グループの市川瑛祐氏は 「空港全体で災害対策に取り組んでいくべく、当時の担当者は粘り強く各事業者に意義を説明し、実現させました」と説明する。

各事業者のBCPは成田国際空港のBCPと連動している。 発災時には、各事業者が、それぞれの組織におけるBCPを発動しつつも、成田国際空港BCPに基づき被害状況の確認や応急対応などにあたる。 成田国際空港BCPの改訂は基本的に年に1度だが、早急な対応が必要なときは時期に関わらず改訂する。各事業者への変更内容の伝達は、改訂する内容により説明会方式か書面送付かを選択して伝えている。

災害情報共有でBousaizを活用

成田空港が一体となったBCPを機能させるためには、災害時の情報の集約がカギを握る。柳田氏は「総合対策本部は意志決定をするための情報を、当社と47事業者から受け取ることになる。
メールや電話でそれぞれの報告を受けて人為的に取りまとめるのは、負担が大きく効率的ではない。そこで情報共有システムを入れました」と語る。
NAAが採用したのがTIS株式会社のクラウド型危機管理情報共有システム「Bousaiz(ボウサイズ)」だった。

Bousaiz内に設置した「災害掲示板」に判明した被害情報を48事業者が順次投稿し、タイムライン方式で表示する。 別途設けた「被害確認表」には最新の情報のみを記載。各事業者で上書き更新をしながら入力する。

市川氏は「総合対策本部会議では、被害確認表を見せることで被害の全体像を一元的に把握できる。 人的被害や建物被害など種類別の情報をフィルタリングで抽出することも可能です」と話す。

情報は大項目、中項目のように分類。大項目にはお客様の避難状況、施設情報、職員の安否確認情報などがある。 中項目には、例えば施設情報なら情報通信施設、バゲージハンドリングシステムのように施設やシステムが並ぶ。
これらは事前に設定しているフォーマットに入力し、集約して総合対策本部で活用する。

ちなみに、総合対策本部の立ち上げや会議の調整、Bousaizの運用や情報の整理などを行う事務局は、空港運用部門のオペレーションセンターが担う。 オペレーションセンターは2018年7月にNAA本社内に開設され、24時間365日体制で空港内の日常オペレーションの状況監視、 危機発生時の初動対応およびNAA内における統括的役割を担い危機管理体制が強化されている。

 

訓練の様子

訓練の様子(提供:成田国際空港株式会社)

 

集まらない災害対策本部体制へ

新型コロナウイルスによって、総合対策本部の運営も見直された。柳田氏は「ウェブ会議システムやBousaizがあるので総合対策本部を設置しても全員が会議室に参集するわけではありません。新型コロナを契機に、リモート参加が主流となっています」と語る。

リモートも活用する総合対策本部に欠かせない電力の備えは、本社ビルに設置している非常用発電機で対応する。通信ラインの途絶にはバックアップ通信網を整備しているが、それでもつながらない場合は、MCA無線や衛星電話などあらゆる手段を使って通信確保するという。

 

総合対策本部(参集基準)

総合対策本部(参集基準):総合対策本部へ参集 、 またはTeamsなどのリモート 会議ツールや電話会議システムを用いて本部へ参加。 ただし、やむを得ない理由により参加が困難な場合には、連絡 体制を維持。無印:総合対策本部への参集は必須ではないが、本部との連絡体制は維持

 

年に2回実施していた防災訓練も大きく変わった。かつては本部運営の手順確認を中心とした訓練であったが、ここ数年は総合対策本部内での意思決定も行うより実践に即した訓練を実施している。 「昨年の9月には、マグニチュード7.3の直下地震を想定したシナリオで、招集に基づく総合対策本部への参加、被害状況等の共有、空港運用再開の決定などを含めた訓練を実施しました」と柳田氏は振り返る。

開港45周年を迎えたばかりの成田空港。今後の課題を柳田氏は「東日本大震災を経験した方が減ってきて、大規模地震が起きたときにどう動くか。訓練を充実させていきたい」と話す。 市川氏は「2019年の房総半島台風時の運用が注目され、次の災害時はもっと厳しい目で見られると思います。万全にできるよう、日頃から改善を意識して取り組んでいます」と語った。


[協力/提供]リスク対策.com:中澤 幸介