OPEN

Column コラム

Column コラム Column コラム

2017.05.10

緊急時に必要な情報とは?会社でも役立つ!いざという時の組織力が高まる

第14回 統合された通信システム(Integrated Communications)

「統合された通信システム」(Integrated Communications)については、ハード(設備)だけでなくソフトも含め、操作要領や通信計画なども統合的に運用できるようにすることを求めています。

通信機器を使い、共通の通信計画に基づいて運用を行うことで、危機対応者は他の対応者ともコミュニケーションが取れ、情報を共有できるようになります。通信は行政区や管轄を超えても運用できるようになっていなくてはいけません。日本はどうでしょうか?

これについては、2013年4月に、ボストン・マラソンを襲った連続爆弾テロ事件の対応がとても参考になります。同事件を調査した元公益財団法人公共政策調査会の河本志朗氏によれば、ボストンでは、ボストン市を含む62の市町で構成される「ボストン都市圏」に、ボストン市救急部が運営する「中央医療緊急指令」というシステムがあり、そこがボストン医療情報センターと情報を共有し、圏内の病院に情報を伝え、さらにはマサチューセッツ州の「緊急事態対策センター」とも情報を共有し、さらに、一部の情報は警察ともリンクしており、消防、警察、病院、自治体の迅速な連携が実現したとしています。例えば、救急車が現場に到着すると同時に、各病院ではいつでも負傷者が受け入れられるよう体制を整える。あるいは、各病院の医療品の過不足、支援可能なスタッフの準備状況、予想される負傷の種類などもリアルタイムに情報共有したとのことです。

日本では、救急車が来たものの、患者の受け入れ先の病院が見つからないといったニュースが過去に何度かありましたが、こうしたシステムは導入を検討してもらいたいものです。
では、すべての関係スタッフが全員、統合された通信システムにより、あらゆる情報を共有すべきでしょうか? 例えば大規模な地震において、ある家でタンスが倒れて誰かが怪我をしたという情報は、あらゆる災害対応者間で共有されるべきでしょうか?

残念ながら、ICSでも、どのような情報を、どのような範囲で共有できるようにすべきかまで、細かく解説されているわけではありません。ですが、普通に考えれば、統合された通信システムを導入したからといって、細かな情報まですべて耳に入ってきたのでは、雑音が多くなり逆に判断を鈍らせてしまうのではないかと危惧されます。 かつて、こんな質問を、ICSに詳しい京都大学防災研究所の林春男先生に聞いてみたことがあります。林先生の説明を引用させていただければ、「目的の達成に必要な情報を、目的を達成する関係者間で共有できるようにしておけばよい」ということです。つまり、ここでもICSの「目的による管理」(Management by Objectives)の原則があてはまるわけです。

SNS機能などを取り入れた災害時の情報共有システムが相次いで開発されていますが、個人的には、大切なことは「どれだけ多くの情報を共有できるか」ではなく、「どれだけ必要な情報を必要なスタッフ間で共有しやすいか」だと思います。監督限界(Span of Control)の概念ともかぶりますが、危機発生時に一人が多くの情報を管理することは難しく、雑音を少なくするというのも大切なことです。